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地域連携ステーション フミコム

活動報告・発行広報物

【開催報告】第48回フミコムcafe「一つの経験から広がる選択肢 -医療的ケア児の地域生活を支える在宅療養支援診療所の挑戦-」

地域連携ステーション フミコム
  • 文京区全域
  • 福祉・健康(高齢者/障害者/その他)
  • まちづくり・安全
  • 子ども
日 時:2020年3月18日(水)19:00~20:30
会 場:フミコム C-base
ゲスト:西出 真悟さん(オレンジホームケアクリニック副院長/ソーシャルワーカー)
※新型コロナウィルス感染拡大防止のため、オンライン配信限定で開催
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2月に引き続き、3月のフミコムcafeもオンライン配信という形で開催しました。
※3月31日現在で再生回数140回程度

ゲストは福井県にある在宅療養支援診療所「オレンジホームケアクリニック」の副院長でソーシャルワーカーの西出さん。

クリニックでは、福井に住む人たちがハッピーに最後まで安心して暮らせることに医療福祉の専門家がどう役に立てるか、医療福祉だけでなくもっとこんなことをしたら暮らしやすい、楽しいだろうということに対して、「やってみよう!」の精神で制度にないことなどにもチャレンジすることを大事にしているとのことです。
そのような取り組みを始めた背景は、クリニックの代表の医師の紅谷浩之先生がへき地医療に従事して外来診療だけでなく往診なども行う中で在宅医療の必要性を感じていたこと。福井の医療の全体像を見たときに在宅医療に特化したクリニックの資源が不足していることからオレンジホームケアクリニックを始められたそうです。
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医療的ケア児とは、病院以外の場所で”たんの吸引”や”経管栄養”など、医療的援助を必要とする子どものことです。 出生数そのものは減少していますが、医療の発達により、医療的ケア児の数は増えていて、現在は19000人ほどいると言われています。
子どもたちが安心して生まれてこられる国だから、生まれた子たちが安心して暮らしていける土壌も作っていかないといけない。一方で、サポートを必要とする子どもたちがいる一方で施設がないのは、何らかの課題があるから。その問題を子どもたちと一緒に過ごす中で見つけ、一つ一つ解決していくことで、より多くの人が来られる場所になっていったり、他の地域にも展開して言ったらよいのではないかとの思いでオレンジキッズケアラボを立ち上げられたそうです。
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在宅医療といっても、医療の出前だけではなく、その方の生活全体を見る視点、また時間軸を広げて考えることも求められます。
医療的ケア児の場合、何年後にこの子は進学する、卒業するなどの視点も持って、そのために今何ができているといいかという逆算してのケアを考えることが必要、と西出さん。
機能訓練をしてこれができるようになりましょうからのスタートではなく、例えば、「友だちと遊びたい!」というところからスタートする。参加の機会が増えることによる好循環があるのではと考え、そのための環境をどう整えるかという視点で取り組みを進めてきているそうです。
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「あれはできない」「これは難しい」と悪いところを探すのではなく、できるところに着目してそれらを繋いでいく視点。これは医療的ケア児のことに限らず、社会のいろいろな場面でもいえることなのではないでしょうか?
そして、ケアをする側も「どうせできないだろう、難しいだろう」という先入観を疑う視点も大事なのではないでしょうか?
とはいえ、なかなか関係者の中で話がうまく進まないこともあります。
そんな時は、誰を主語にして話しているか、医療的ケア児本人を主語にして考えられているかを振り返ることが大切だと言います。
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一つひとつの事例を積み重ねていく中で、子どもたちや親御さんたちには「前例を作る、地域にとっての初めてのことを一緒にやっていくんだよ」「あなたたちが作った前例によって次の子どもたちにとってできることが増えていく、次の子どもたちもまた新たなチャレンジができていくんだよ」と伝えているのだとか。

また、医療的ケア児が地域に出ることによって、地域そのものの変化も感じてきた、と西出さん。例えば、旅行に行く、となると新幹線移動が必要になりますが、それにより駅員さんの対応が医療的ケア児に関わらず高齢者などにもより丁寧になったりすることがあるとのこと。
子ども、弱者と呼ばれる人たちが社会に出ることで地域がケアマインドにあふれた町に変わっていく、これはまさに「社会福祉の父」とも言われる糸賀一雄さんのいう「この子らを世の光に」に通じるのではないでしょうか。

最後に西出さんはまとめとして以下のように話をしてくれました。

「初めての体験」はハードルも高いけれど、最初の一歩をどう超えるかが大事で、その一歩を超えるために専門職がスロープになったりステップになることが必要。ゼロからイチの次は子どもたちがどんどん自分で進んでいく力があるからこそ、最初の一歩をどう後押しできるかを考えたい、と。

医療的ケア児に限らず、新しい制度を作るのは現場の数々の実践で得られた知見からですが、社会は常に変化をしているし、制度をつくったところでどうしても隙間はできてしまいます。その隙間に気づけるのは現場の力。この子たちにとって何がベストなのか、から始めてそれに対して今の制度のどこが不具合なのかを考え、やってみた結果を発信することで一緒に解決する仲間が増えて行ったり、制度化につながったりします。

行政に「何とかしてくれ」と言っても、現場の実践が見えていない中でどうしたらいいかわからないのも実情。だからこそ現場の側から課題に対してこういうアプローチしてみたらこうだった、だからここを改善してはどうかというと提案していくこと。そうすることで社会が変わっていくのではないか、と力強く話されていた西出さん。

福祉に限らず社会課題を解決していくために様々な主体と連携しながらどう動いていくかを考えるうえでヒントになるエピソードが満載のフミコムcafeとなりました。

新型コロナウィルス感染拡大防止のため、今後も当面オンライン開催での開催が続きそうですが、対面という形でなくても情報を届けることについてはできる限りの方法でトライをしていきたいと考えています。令和2年度のフミコムにもぜひご期待ください。