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地域連携ステーション フミコム

活動報告・発行広報物

【開催報告】第67回フミコムcafeオンライン 「夜のパン屋さん」から考えるロスのない循環する仕組みづくり

地域連携ステーション フミコム
  • 国内
  • 国際・人権・男女共同
日時:2021年10月20日(水)19:00〜20:30
会場:オンラインにて開催
ゲスト:佐野 未来さん (有限会社ビッグイシュー日本東京事務所長)
最大視聴者数:40人(Zoom参加者、YouTubeライブ信視聴者の総数)
今回のフミコムcafeは、ホームレス状態にある方の社会的自立を応援する活動を行うビッグイシュー日本の佐野未来さんをゲストに迎え、お話を伺いました。

ビッグイシューはどんな活動を行っているのか、「夜のパン屋さん」とは一体どんなパン屋さんなのかについてだけでなく、佐野さんがなぜ現在の活動を行うようになったのかなど、佐野さん自身の言葉でお話いただきました。

●佐野未来さんについて
高校卒業後、アメリカでジャーナリズムを学び帰国。帰国後の地元大阪の街は、渡米前には見なかったたくさんの路上生活者の方で溢れていました。
当時はバブル崩壊直後。佐野さん自身も、職が順調に見つからず、ホームレス状態になることを人ごとに感じなかったそうです。
街に溢れた路上生活者の方に衝撃を受けた佐野さんはその景色を心に残したまま、アルバイト生活や英語教師を経験したあと2007年に上京。ビッグイシューの一員に加わりました。

●ビッグイシューについて
1991年、イギリスのロンドンで生まれた「BIG ISSUE」。
住所や所持金が無くても、すぐに始められる仕事を提供することで、ホームレス状態の方の自立を応援するために作られました。
そんなビッグイシューの日本拠点は、「企業」と「NPO法人」の二つの顔を持っています。
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*有限会社「ビッグイシュー日本」 2003年に設立。
『チャリティではなく、「働く機会」を提供する』ことを使命とした社会的企業。
働くことを希望する方に、まずはじめに1冊450円の雑誌10冊を無料で提供し、その売り上げたお金(4500円)を元に、1冊220円で在庫を仕入れてまた販売する。
ただ支援するのではなく、自身の力で成功体験を掴んでもらうことこそが「前向きに生きる力を得る」ことに繋がると佐野さんは言います。
私たちは生きていく中で、何かを乗り越えようとするとき家族や、友人、同僚など自然と周りのサポートを受ける体験をします。
しかし佐野さんはたくさんのホームレス状態の方々と会話をする中で、彼らの多くはその経験が少ないことを感じました。『自分なんか…』と思うことは、新しいつながりによって減らすことができるのではないか、と。
雑誌の路上販売は、ただお金を稼ぐためだけではなく、購入者やスタッフとの会話を通して、つながりを作ることも目的とされています。

しかし、課題はただつながりが少ないことだけではありません。
彼らに「足りていない」ものを補うためには、「他団体との協力やさらなるサポートが必要」とビッグイシュー日本はもう一つの団体を立ち上げます。

*認定NPO法人「ビッグイシュー基金」 2007年に設立。
①路上生活者の方への支援。
(シェルター、お金が溜まって公的な書類を用意するまでのステップハウス、健康相談、医療サポート、同行支援、家賃や家計支払いのサポートなど)
②調査、政策提言
③市民の方を参加啓発

ビッグイシュー基金ではこの3つを柱に、「誰にでも居場所のある包摂社会の形成」を目的としながら活動を行っています。

●佐野さんが考える「人のロス」とは
佐野さんの大きな転機は、2008年の秋に起こったリーマンショックでした。
それまで、「ビッグイシューの販売員になりたい」と事務所を訪れる人の多くが50代の男性。日雇い労働をしながら生活していた方が職を失った、または体を壊してホームレスになる方が非常に多かったようです。
しかしリーマンショック後には、20~30代の突如仕事を失いホームレスとなった若者が増加。
まだシェルターなどの施設が整っていなかったことから、とにかく彼らには雑誌を売って、小銭を稼いでもらうことしかできませんでした。
しかし、路上生活に慣れていない若者は日に日に体を壊し、体力を失っていく。
そのうちについこの間までピンピンと働いていた方が、もう社会復帰できない体になってしまう。こうして生活保護の受給者や、支援を受ける人が増えることは「社会の損失」にもなっていることに佐野さんは気がつきました。

●雑誌販売の難点
雑誌販売の難しさは、路上生活に慣れていない方には厳しいこと以外にも存在します。

【カミングアウトするということ】
ビッグイシューの販売を行うということは「私はホームレスです」とカミングアウトするのと同じこと。温かい反応ばかりではなく、時には冷たい言葉や罵声を浴びせられることもあるそうです。そのような危険性もあってか、ビッグイシューの販売を女性が行うことは難しいことでした。

【コロナ禍のビッグイシュー】
人の流れや経済に、大きな影響を与えた新型コロナウイルス。
外出自粛の日々の中、ビッグイシューも「路上販売」という方法でお金を稼ぐことができなくなります。
そうして佐野さんたちが始めた取り組みの一つ目が、『コロナ緊急3か月通信販売』。
通信販売で売れた冊数×230円を販売員の方に分配する形で現金給付を行いました。
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●夜のパン屋さんについて
ビッグイシュー基金の共同代表で料理研究家の枝元なほみさんは、北海道のパン屋さんが道内の系列店で開店時間内に売り切れなかったパンを、一つの店舗に集めて夜まで販売している取り組みを見て、夜のパン屋さんを思いつきます。
ちょうど2019年の秋頃に、継続的な活動に対して寄付をしたいとの声をいただいていたこともあり、「新しいことを始めるなら今だ!」と夜のパン屋さんの運営方法が立てられました。

①協力してもらうパン屋さんの、閉店間際まで残ってしまったパンを安い値段、もしくは無償で回収させてもらう。
②夜のパン屋さんで、おおよそ19時〜21時の間に定価で販売する。
③その差額が売上金になる。

こうして、2020年10月16日、世界食糧デーの日に神楽坂のかもめbooksという本屋さんの軒下で「夜のパン屋さん」は始まりました。

●売れ残りは値引きすべき?
上記の方法だと、私たちが購入するパンの値段に変化はありません。
閉店間際になるとお惣菜などを安く販売するスーパーも多く、なぜ割引しないの?と思った方も多いかもしれません。

しかし佐野さんは、「大切に作られたパンを胸を張って定価で売っている」と仰いました。
夜のパン屋さんに並ぶパンは、あくまでもまだその日作られたばかりの賞味期限内のおいしいパン。
決して、価値の下がったあまりものを売っているわけではありません。

大切なことは「自分が相手の立場になったときに気持ちが良いかかどうか」だと佐野さんは言いました。
つい「購入する側」「支援する側」に立つと、あまりものは安く売るべき、寄付するものはボロボロでも使えるものなら喜ぶだろう、と無意識に思ってしまうことが多いかもしれません。
そんな時に忘れてしまいがちな、私たちが「買ってもらう側」「支援される側」になったことを想像してみることが重要なことを、佐野さんのお話から受け取ることができます。

「"大切にされている"という感覚を感じられなければ、嬉しいと思わないことは自然なこと」

そう仰った佐野さんが運営する夜のパン屋さんでは、おいしいパンを定価で売ることは、大切にしている方針の一つです。

●夜のパン屋さん利用者の声
夜のパン屋さんの魅力は、「ロス」削減だけではありません。
実際に夜のパン屋さんを利用した方からは、「色々なパン屋さんのパンから選ぶことができて楽しい」といった感想が寄せられました。
現在、協力するパン屋さんの数は17店舗。そのうちだいたい4~6店舗のパンがその日の商品として店頭に並びます。
仕事帰りに様々な場所にあるパン屋さんらのパンを、一度に購入することができることは夜のパン屋さん最大の魅力ではないでしょうか。
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●「路上脱出・生活sosガイド」
ビックイシュー基金が無料で配布している「路上脱出・生活sosガイド」。
この本は、炊き出しの情報や各自治体が行う支援などを確認することができます。
関心のある方は、下記詳細をご確認ください。
↓ビッグイシュー基金 「路上脱出・生活sosガイド」
https://bigissue.or.jp/action/guide/

●参加者からの質問
夜のパン屋さんの取り組みをみて、真似てくれる人が増えることが嬉しいと仰っていた佐野さん。
今回の質問コーナーでは、夜のパン屋さんの運営に関する質問が多数寄せられました。

Q.計画から開店までどれくらいの期間がかかったか。
A.2020年の4月から計画が始まり、2020年の10月16日(世界食料デー)の日に開始した。

Q.開店までの経費はどれくらいかかったか。
A.出店場所が見つかる前までは、キッチンカーでの販売を計画しており、そのキッチンカーの購入費用が最大の出費で約100万円。それ以外の経費は数十万円と、あまりかからなかった。

Q.販売をするにあたり、資格や保険所のチェックはどれくらい厳しいか。
A.それぞれパン屋さんにパンを個包装にしてもらい、材料や製造場所など決められた内容を明記してもらうことで食品衛星関係の許可は必要ない。(保健所のチェックのみ必要)

Q.協力してもらうパン屋さんを探すにあたり、偏見などはあったか。
A.大きな会社やチェーン店ほど理解を得るのが難しかった。パン屋さんへの声掛けを料理研究家の枝元さんが行ったことで、枝元さんを知る方からは理解が得やすかった。


●制服リユース「さくらや」さんのご紹介
最後には、文京区内で制服のリユース販売を行なっている「さくらや」の石井さんからご紹介がありました。
さくらやは、全国に70店舗ある学生服のリユースショップ。
使わなくなった制服やその他授業で使う柔道着などを回収し、クリーニングや修繕して、安価で販売する取り組みを行っています。
また制服は悪用されやすいモノでもあり、販売には学生証の提示や入学証明書の提示を求めるなど、安全生にも配慮しながら販売しています。

そんな「さくらや」の文京区店がオープンし、制服の寄付や、回収BOXの設置場所も現在募集しているとのこと。詳細は下記サイトからご確認ください。
↓学生服リユースshop「さくらや」文京店
https://www.seifuku-sakuraya.com/blog/bunkyo/

●ご視聴いただいたみなさまからの感想
終了後、ご視聴いただいた方にアンケートにおこたえいただきましたので、一部ご紹介します。

・もったいない。と思う気持ちが、生活の中で多々ありました。循環させることは大切と思いながら、そのような仕組みを作るのはなかなかできませんでしたが、夜のパン屋さんの活動は、食品ロスや雇用の問題を解決する糸口になると思いました。さらに広がっていくのでは、と思います。

・まずは身近な家庭から出る食べ物や用品のロスを改善していけたらと感じています。また、物だけでなく人や活動を大切にする事がお互いの気持ちをシェアすることに繋がり、生きづらさを無くすのだなと今日お話を聞いて感じました。

・売れ残ったものとはいえ、大切に作ったものだから定価で売る、という考え方がとても心に残りました。困っている方に渡すからこそ、期限切れのどうでもいいようなものではなく、美味しいものを楽しんでもらいたいという気持ちが良く伝わってきました。
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そして今回も、グラフィックレコーディングしていただきました。深山さんありがとうございました!

<参考リンクまとめ>
・ビックイシュー日本HP
https://bigissue.or.jp/

・ビックイシュー基金HP
https://bigissue.or.jp/

・夜のパン屋さん公式SNS(出店場所、時間などはこちらからご確認ください!)
(Facebook)
https://www.facebook.com/yorupan2020
(Twitter)
https://twitter.com/yorupan2020
(Instagram)
https://www.instagram.com/yorupan2020/

・学生服リユースショップ「さくらや」HP
https://www.seifuku-sakuraya.com/

また、11月20日に行われたフミコムcafe拡大版、「フミコム活動見本市 きっかけはなんだっていい」をご覧くださったみなさま、ご視聴本当にありがとうございました。
アーカイブ配信もございますので下記特設サイトからぜひご確認ください。
↓フミコム活動見本市「きっかけはなんだっていい」アーカイブ配信
https://fumicom.hp.peraichi.com/2021

また年内最後のフミコムcafeは12月17日(金)19:00~20:30開催!
「新しい年を迎える前に! 地域活動のモヤモヤはシェアして解消!活動のヒントが見つかる交流会」と題し、区内で様々な地域活動を行う方の交流の場をオンラインで開催します。みなさまのご参加お待ちしております!
↓次回フミコムcafe詳細
https://www.d-fumi.com/article/detail/1549